2021年04月15日

ボンベレスダイブ113

 

 

黒煙が空高く立ち上り火柱が数箇所であがっていた。

想像も出来ない恐ろしいほどの熱気が辺り一面に広がりあらゆるものを溶かし始めていく。

呻き声が重奏低音のように道路を覆い、漏れ出た重油の間から焼け爛れた人がソロリソロリと力無く体躯を動かしているのが確認できた。その前には、ぬらりとした血の帯がアスファルトを被せるように敷き詰められていた。

痛さと熱さで、のたうちまわる人。ぐったりとなり車内で意識朦朧となっている人。

車外に放り出され全身火ダルマで焼け焦げてピクリとも動かない人。

現場は無残さ残酷さを語るにはとても語りつくせない程の酷い修羅場と化していた。

それを見た僕は体がガタガタと震えた。口の中に変な違和感を感じ、一気に唾をのみ込もうとしたのだが喉がぎごちなく上下に動いただけでグクンッと情けない音しかしなかった。九死に一生を得たことへの緊張感がそうさせていたのだと思う。

ふとライフルを持った男がいた高架橋が気になり顔を向け確認してみる。誰もいない。

事故現場に目を戻すと難を免れた車から降りてきた人が、携帯電話で連絡しているのが見て取れた。

もうこれ以上、ここでの長居は無用だ。僕は即座にそう判断していた。この事故において僕たちは完全に蚊帳の外だった。重要参考人には間違いないが、これに絡むと厄介なことに巻き込まれるのは当たり前のように察しがついた。

トラックに同乗者がいたということ自体、まだ知られていない。やがては詳しく調べられて車内に残っている指紋などから僕達の存在が判ってしまうのだろうが、今の僕達には、ここで油を売ってる暇などなかった。

「和樹。いくぞ。」

和樹に向かい目も合わさず、僕はそう言っていた。

「えっ?兄ちゃん、ここにいなくていいの?」

「後続の車から降りてきた人が、今、電話してる。間もなく救急車が来ると思う。俺達は今ここで足止めされている時間は無いんだ。ここで警察に事情聴取でもさせられてみろ。苦労してやっとここまで来たのに、また栃木県に返させられてしまうじゃないか?とにかく今の俺たちには前へ前へと進むしかないんだ。それにグズグズしていると銃撃した犯人がここに調べに戻って来るかもしれないじゃないか。そんなことになってみろ。俺たちは犯人を目撃してるんだから確実に犯人に目をつけられ殺されちまう。急ごう。」

「兄ちゃん、待って。」

そして砂場の傾斜面から下りて普通の一般道に出て進むことにしたのである。

そんなこんなで僕たちは日間賀島へ出港する港までやってきたという経緯があった。栃木県を出発してからすでに半日くらいが経過していた。思えば色んな出来事があったが、それを上手く潜り抜けて無事によくここまで辿り着けたものである。

僕は疲れというものがピークに達し、これ以上話す気力を失いつつあった

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2021年04月15日

ボンベレスダイブ112

 

座席からダッシュボードまで距離があり勢いも手伝って助手席に座っていた僕達は弾丸が飛び出すように弾き飛ばされたと言った方がいいのかもしれない。間一髪、これ以外考えられない最良の落下地点に僕たちは、落下していたのだった。もしこれがコンクリートの硬い所だったら、僕たちは確実に助かっていなかっただろう。不幸中の幸いとは、よくいったものである。車外に放り出された僕たちはガードレールを飛び越え、空中で一回転し側溝よりさらに下にある砂だけで形成された砂場のような傾斜面に足からスライディングしていったのである。

まさに間一髪という感じで砂場に対してスライディングが上手く決まっていた。

一つは、緩衝剤となった砂場がそこにあったこと。もう一つは、砂場と体を絶妙な角度でスライディングが決まったこと。この二つが上手く重なったことが、幸いして僕たちは信じられないくらいに無傷だったといえる。いくつもの状況が全て重なり合い神は僕たちを生還の道へと導いてくれたのだった。

落下の衝撃で僕たちは、その場でしばらくの間、意識を失ってしまっていた。

その後、大惨事となる玉突き事故が勃発するのである。トラックは右斜め前に前進しながらの酩酊走行。そして横転。

ドッバーン。ドッバーン。

後続車の衝突。打ち寄せては帰っていく波のようにその惨劇は断続的に続いた。その後、派手なほどの炎上が繰り返される。

どれくらいの時間が経ったのだろう?

いや、そんなに時間が経っていないのかもしれない。物凄い爆音によって僕は目覚めた。

ここは、一体どこなんだ?場所を示す看板を探してみる。愛知県。そうか、やっぱりここは愛知県だったんだ。初めて足を踏み入れる愛知県。手荒な歓迎ぶりを受けたものだが、大惨事を免れたことが、何よりも僕たちの到着を歓迎している証となった。

早くこの砂場から逃げないといけない。と考えた。

隣りで気を失っている和樹を揺り動かし意識を取り戻させる。さすが我が弟と言ってもいい位の幸運の持ち主で、心配ご無用といった感じでかすり傷一つなく至って健康そのものだった。

事故現場は、今、どういった状況になっているのだろう?とても気になる。

傾斜面に設けられた砂場であったため、事故現場を知ることがとても困難になっている。ここだけが樹々が生えていない何もない空間になっていて、あらゆる場所から確認しようとしても完全なる死角になっているようだ。

何とか事故現場を確認しなくては・・・僕は砂場の傾斜面を頑張って這い上がってみる。

その状況が目前に現れる。思わずギョッとなる。おぞましい程の惨劇。あまりの惨事に愕然となる。十数台と思われる車がグシャグシャになりミニカーのように至る所にあらゆる方向へと向きなり位置を変え転がっているという有様だった。

 

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2021年04月15日

ボンベレスダイブ111

 

僕たちは、日間賀島へ向かう高速船にのっていた。

和樹と二人、甲板に立って海に向かい物思いにふけっていた。

船はそんな僕達に構う事無く波しぶきを高く巻きあげ、エンジンの重低音を響かせながら突き進んでいく。先ほど出発した師崎港が段々と遠くになるに従って知多半島が視界の右半分を覆うようになりその全体像が露になった。

事故のことがふと頭をよぎる。あまりの衝撃が大きかったため思い浮かべずにはいられない。そっとトラックの運転手を思い、半島に向け合掌してみる。

涙が頬を伝い、流れ落ちていた。

弟の復讐を思い浮かべ、今日まで生きていたのが何だったのだろう?さぞ無念に違いない。

隣りで一緒になって合掌している和樹をそっと見てみる。

もし僕があの植村だったとして、同じように弟であるこの和樹が亡くなったとしたら?

いや、駄目だ。とても考えたくない。ショックを通り越し見境もなく荒れ狂うだろう。

植村を銃撃した奴はいったい誰だったんだ?あの高架にいた男。車内から僕は確かに見えていた。あの男が、運転手のこめかみを狙ったのは紛れもなく確実な事・・・でもなぜ?駄目だ。全くわからない。

それにしても僕たちは、本当に生きていてよかった。よく助かったものだ。

奇跡的に近い形で運良く助かったといえる。

あの時、確かにトラックの車内では、とんでもない事が起こっていた。

時速百五十kmという猛スピードで走行していたトラックは銃撃を受け幾分減速したのだった。そして左へ進路をとったかと思うと左にあったガードレールに物凄い勢いでぶちあたっていった。「あぶないぃ。」ガシャーン!

僕たちはシートベルトをしていなかったこと。銃弾が当たったことにより、荒れ狂う風圧で、フロントガラス全体が、バリバリに割られて跡形もなく無くなってしまったこと。植村を避けるため素早く僕達は座席に前かがみになっていたこと。左のガードレールにトラックが、ちょうど斜め前から猛スピードで突っ込んでいたこと。これら全てが、ものの見事に功を奏して僕たちは奇跡的に助かったのである。このうちのどれが欠けていてもきっと駄目だった。確実に死んでいたといえる。

もしフロントガラスが割れずに残っていて座席から前かがみの状態で頭を強打していたら、あの猛スピードでは、たぶん僕たちは首の骨を折っていたと思う。そして折れた所が首の上の骨だったら大変な事になっていた。例えばハングマン骨折・・・そうその名の由来は絞首刑される囚人にこの骨折が多いからその名が付いたとされる。首の骨が過伸展つまり思い切り首を後ろに反る事により骨折が発生するものである。息が出来なくなるどころか僕たちは、とっくにお陀仏になっていた所だ。想像するだけでも、背筋を凍らせる。

ガードレールに当たった瞬間、弾みで僕たちはフロントガラスのあった所から車外に投げ出されていたのだった。

 

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