2021年01月24日

ボンベレスダイブ91

 

「大丈夫か。そんなことやって。税関に見つかりはしねえか?」

 

「手足を縛って車のトランクに放り込んでおけば大丈夫だ。

 

見つかりっこねえ。どうだ。いいアイデアだろ。

 

それには窒息死しちまうと良くねえから空気孔を開けるようにだな向こうのバイヤーに言っておいて・・・」

 

得意満面な表情で言っているのが目に浮かぶ。

 

僕たちが手を洗っている手洗い場から壁一枚はさむ形で男2人は話していた。

 

僕たちは、それを聞いて驚きのあまり背筋が凍り付きそうだった。

 

膝はガクガクと震えて止まらなくなっている。

 

「和樹。」

 

僕は小さな声で言う。

 

和樹も僕と目を合わせ何も言わずにただ黙って頷く。

 

固唾を飲みこむと喉がゴボリと唸るように鳴った。

 

腰が抜けそうで歩くだけでも大変だったがフラフラしながらもなんとかバランスを整えることだけに集中して

 

僕たちは、この場から必死になって逃げることを考えた。

 

捕まると海外に売り飛ばされてしまう。

 

そうなると今回のことで父ちゃん母ちゃんとは今生の別れになってしまう。

 

絶対嫌だ。

 

ましてや和樹とは別々の国へそれぞれ別れて売り飛ばされ離ればなれになるかもしれない。

 

なんてことを考えると何が何でもこの場から逃げたかった。

 

失敗に終わってしまった。

 

まだ全然、愛知県に向けて進んではいない。

 

ここは僕たちの住んでいる所から目と鼻の先の地点である。

 

でも、もしこのまま人身売買されて、どこかの国へ売り飛ばされてたということを考えたら・・・

 

失敗でよかったんだとも思える。

 

「どうする?兄ちゃん。また元に戻ちゃったけど。」

 

和樹が力なく言う。

 

そんな時だった。突然、頭上に降るように僕は、ある名案が思いついたのだった。

 

「和樹、ちょっと、俺について来い。」

 

「どこ行くの?」

 

僕は和樹を誘導する。

 

「いいから、ついて来い。」

 

僕たちは国道から北西方向に向かい歩いていく。

 

もうすでに東の空が、明るくなっている。僕たちは、急いだ。

 

五百mも歩くと、違う国道が交差して現れた。

 

この国道は、今まで歩いてきた国道よりもトラックの往来が激しく、

 

高速道路などに通ずるジョイントの役目を果たしていた。

 

それを北へと少し歩いたところに目的とするものはあった。

 

「ああ、これは。」

 

そうである。そこは僕が、以前父ちゃんと歩いていた時に、愛知県に向かうトラックを見つけた工場である。

 

「兄ちゃん、頭いい。」

 

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2021年01月21日

ボンベレスダイブ90

「兄ちゃん、もう少し頑張ろうよ。」

 

このまま、何時間待っても、トラックが捕まらなかったらどうしよう?という不安も見え隠れしてくる。

 

やっぱり無理かな?と思い、一つ大きな溜息をついた時である。

 

キイーーーーン。ブレーキをかけて停まる一台の車。運転席の窓が開き、男が僕たちに話しかける。

 

「君たち、さっきドライブインに居なかったかい?」

 

「はい。居ましたけど。」

 

「やっぱりそうか。確か愛知県行きたいって言ってたよね?」

 

「そうです。えっ?愛知県まで乗せて行ってくれるんですか?」

 

「ああ。いいよ。俺の車でよかったら乗りなよ。」

 

半分諦めかけていた気持ちだったが、乗せて貰えるってことを聞いたことにより僕たちは消えかけていた元気が復活していた。

 

僕たちが喜んで後部座席に乗せてもらうと助手席にはもう一人の男が座っていた。

 

車がゆっくり動き出すと「よろしく。」と一言挨拶して、

 

2人の男は面白おかしく社内の雰囲気を明るくさせ時には冗談を言ったりして

 

僕たちを笑わせながら車中で僕たちは楽しい時間を過ごしたのだった。

 

それから走り出して20分くらい経過した時だ。

 

トイレ休憩するということになりドライブインに立ち寄ったのである。

 

我慢していたこともあり、僕たちは走ってトイレに駆け込んでいた。

 

20分くらい休憩するということだった。

 

トイレに行った後、隣接している土産物店へ行き、僕たちは試食のお菓子をバクバク食べ始めていた。

 

売店のおばちゃんが、僕たちがむさぼるように食べている姿を見て迷惑そうな顔をしている。

 

試食であるお菓子を一つまみすればいいのだが、

 

僕たちは片方の手一杯までお菓子を掴んで食べているのでケースの中に入っていたお菓子はアッと言う間に空っぽになっていた。

 

派手に食べていたこともあり僕たちの手はお菓子の粉末まみれになっている状態だった。

 

さすがに店のおばちゃんに、おしぼりを要求するといったあつかましいことはできなかったので、

 

僕たちは再度トイレに行き水道水で手を洗おうとしたのである。

 

「なあ、どうするよ。あのガキたち。せっかく捕まえたんだし何か利用でき手はねえかな?」

 

「人身売買するってのはどうだ?金になるって話だぜ。」

 

「いいな。それ。何しろ向こうからこっちにきたんだからな。飛んで火に入る夏の虫って訳だ。で、どうする?」

 

「愛知県行きたいって言ってただろ?行くようなふりして、とにかく北に進路を取るんだ。

 

な~にガキ達が途中で気付いたとしても、どうせ家出してきたろくでもねえガキどもだ。

 

世間から姿を眩ませたところで、困るわけでもねえし、どうってこたあねえよ。

 

港に行くと外国から国内で盗んできた高級車を買いに来てるバイヤーがいるだろ?

 

そいつらに話をもちかけるんだ。きっと奴らならガキ達を高く買ってくれるぜ。」

 

 

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2021年01月17日

ボンベレスダイブ89

 

「ちょっといいですか?」

 

ここは国道沿いにある道の駅である。

 

夜が明けやらぬ中、朝めしをかっ込むトラックの運ちゃん達が、一斉に僕の大声に注目する。

 

こんな朝っぱらから何だ?と、いぶかしげに僕たちをジロジロ見る態度には、

 

血に飢えた狼の殺気のようなものがビンビン伝わってくる。

 

生き方には、大きく分けて二通りのパターンがある。

 

頭でコツコツ何かを考えて、やり遂げるパターンと、

 

何も考えず恥も外聞もなく、やり遂げるパターン。

 

僕が今やっている事。それは明らかに後者。

 

理屈をつけて行動していたら今の僕には永遠に出来るものも出来ない。

 

あえて馬鹿になる。それが、今、この瞬間を生きていく上での術である。

 

これぞ和樹の言っていたボンベレスダイブ。

 

ひるんではいけない。

 

大声で言わなければいけない。

 

この人たちの空気にのまれてはいけない。

 

自分の中で、勝手に作りあげた規則に、逆に縛られてしまい声が震えて止まらなくなる。

 

今いる場所は、物流トラックの往来が激しい広大に広がるドライブイン。

 

全国へ向け物資を届ける運ちゃんたちがメシをかっ込むかあるいは一旦トラックを駐車して休憩するため集う場所でもある。

 

あちこちで仲間同士からかい合うような胴張り声が聞こえている。

 

僕は、その中にある食堂で運ちゃんたちに向かい再度大声をあげて叫んでいた。

 

ここは男臭い、まさに男のためにあるくつろぎの場所であることを承知の上だ。

 

「僕たちは、用事があり、どうしても愛知県に行きたいんです。

 

誰か、愛知県に行く人、いませんか?もしいたら僕たちを連れて行ってくれませんか?」

 

何だそんな事か?と判断した後には、一瞬、静まり返った食堂内も、まるで何もなかったかのように、今までの喧騒による雑音が復活する。

 

「愛知県じゃなくても、東京まででいいんです。誰か、行きませんか?僕たちを乗せて行ってくれませんか?」

 

「・・・」

 

皆、僕の呼びかけにはシカトである。

 

というより内心、邪魔者扱いされているのが刺すような視線からチクチク伝わってくる。

 

小僧なんかには用はないといった感じだろう。

 

僕たちは、そんな威圧感にも負けず尚も同じことを、それぞれ違う三箇所のドライブインへ行き繰り返していた。

 

でもなかなか思い描くようにはいかない。

 

仕方なく、東京と書いた紙を、僕が持ち、愛知県と書いた紙を和樹が持って、

 

国道を行きかうトラックに見えるように僕たちは、ヒッチハイクするため国道に立っていた。

 

そうする事でスムーズに事が運ぶと考えたのである。

 

何台ものトラックが通り過ぎるのだが、一向に停まってくれる気配は微塵も感じられない。

 

「あ~あ」

 

思わず溜息が出てくる。

 

 

 

 

 

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2021年01月15日

ボンベレスダイブ88

 

「わかった和樹。上手くいこうが失敗に終わろうが全ては運命と考えてみよう。」

 

「うん」

 

和樹は今までにない明るい声で応えている。

 

「後悔しないな?もし誘拐されて殺されても・・・」

 

「うん。勿論。望む所だ。僕たちは誰に命ぜられたわけでもない。

 

自分たちで決めたことをしようとしてる。」

 

「行こう。ボンベレスダイブ。」

 

「やってみよう。ボンベレスダイブ。」

 

和樹も僕に合わせ力強く受け応える。

 

お互いガッチリ手を組み片方の手の親指を立ててサムズサインで強い意思をあらわす。

 

我が弟ながら、最近の成長ぶりには目を見張るものがある。

 

しっかりとした考えを持っていることに感心させられたりもする。

 

そうか。

 

やってみようと思う、ボンベレスダイブ。

 

僕たちは住み慣れたこの県。あのⓊ字工事によって有名になった栃木県をしばらくの間、離れることになるが・・・

 

僕たちはこの後、何だかよくわからない未知なる県、愛知県へと向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計画した時から一週間が経ち、いよいよ決行の日がきた。

 

杉山という男がどうしているのか?気になっていたし、

 

歩美が、あれから連絡がないことに僕たちは心配でならなかった。

 

まだ、夜が明けきらないうちから僕たちは行動する事にしたのである。

 

父ちゃんと母ちゃん二人が起きてくる前に行動したかったので、

 

引き出しから一万円と僕たちのこづかい一万円の合わせて二万円を持ち、

 

今からキャンプに行ってきます。今日は家には帰りません。という書き置きをテーブルの上に残し、

 

僕たちはリュックを背負って急いで家を出発したのだった。

 

 

 

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2021年01月12日

ボンベレスダイブ87

 

「でも~。」

 

「いいじゃないか?兄ちゃん。まだグジグジ言ってるの?男らしくないよ。」

 

「父ちゃん、母ちゃん心配するじゃないか。」

 

「適当に言い訳考えればいいんだよ。」

 

和樹は執拗に絡みついてくる。真剣な眼差しである。

 

「でも・・・」「兄ちゃん。」

 

「ん?」「僕たちは、確かめたいことがあるよね?」

 

「ああ。」

 

「それに・・・」

 

「何だよ?」

 

「おじさんの正体つきとめたいし。それに・・・」

 

「何だよ?」

 

「心配なんだよ。歩美姉ちゃんのことが・・・それに・・・」

 

「何だよ?まだあんのかよ?」

 

「僕たちが行かなかったら、大変な事になるかもしれないんだ。」

 

「え?何だ?それって?」

 

「いや、今は、まだ言えない。」

 

「お前、何か知っていることでもあるのか?」

 

「・・・」

 

今まで気づかなかったが、和樹は何かを隠している。

 

いつの間に、僕の知らないところで、どんな情報を入手したのだろうか?

 

そのほうが驚きでもある。

 

和樹の情報量、勘の良さは僕の上を、はるかに凌駕する。

 

こんな和樹を見たのは初めてだ。

 

人間的にここ最近一回りも二回りも成長したと感じる。

 

闇の中で蠢く魔物が、僕たちの知る由もない所で動いているのかもしれない。

 

でもそれが何だっていうんだ。吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知ること。

 

ひょっとかしたら悪魔の化身となった生物が手ぐすね引いて待っているかもしれない。

 

例えるならそれはまるでアンコウが捕食するのを待ち構えているように

 

その場で動かずジッとしてアングリと大口を開けて僕たちが罠に嵌まりに来るのを待ち構えているのかもしれない。

 

「・・・」

 

しばらくの間、沈黙が続いた。

 

他にいい方法がないのか?父ちゃん母ちゃんを口説いて愛知県に向けて家族旅行と洒落込むとするか。

 

いややっぱりそんなの面白くない。

 

僕たち2人が誰の手も借りずにやることに意味があるのだ。

 

あの出不精の父ちゃんにまた再度お願い事をするには至難の業と言っていい。

 

僕は、その間中、考えを思い巡らせていた。

 

しかし、どう考えても他にどんないい方法があるのか思いつかない。

 

よし。決意は固まった。

 

僕は一度大きく深呼吸して和樹に言った。

 

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南安城整骨院・接骨院のおもしろい院長ブログ

安城市にございます南安城整骨院では、院長がブログを配信中です。院内の出来事や治療の事、お体の事、あるいは日常のちょっとした出来事などを綴っておりますが、ご覧いただいている常連の患者様などからは、文学調で面白いとか、エッセイを読んでいるようだとの感想を頂戴しております。
単に痛みの話や交通事故治療の話を語り、南安城整骨院・接骨院にいらしてくださいというのではなく、どこか小説を読んでいるような面白さでございます。是非一度、ご覧いただき、院長の成りや人柄、考え方に触れていただければ幸いです。
整骨院・接骨院での治療は直接お体に触れ、患部の症状を和らげていきます。そのため、やはり施術する人がどんな人であるのかは、患者様の関心事でございます。ブログを見て、この人なら任せられると思った方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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