2020年05月12日

湖の妖精2

「さっき奥で力なくしょげてたの見ました。」

厨房の中で働いているシェフのワンがチーフに言う。

「アイツ。またさぼってんのか。まったく・・・しょうがない奴だな。」

チーフが厨房の奥をズンズン進んでいく。

行った先には倉庫があり

くだものや野菜の入った段ボールが食材別に積まれてある。

奥のじゃがいもの入った段ボールに腰掛けている一人の男を見つける。

それがこの俺である。

それを見たチーフが俺に向け怒鳴りつける。

「こら。誠。食べ物の段ボールに座るなってこの前から

何回も言ってるのがわからないのか。お客様の大切な食べ物なんだぞ。

傷んじまったらどうしてくれるんだ。」

「すみません。」

力なく俺は応え、ゆっくりヨイショと立ち上がる。

「うちはジャッキーチェンも来たことのある格式の高い中華料理店なんだ。

その辺のところをよくわきまえろ。」

またか・・・何かと言うとチーフは2言目にはジャッキー・・・

ジャッキーである。

最初のころは「へぇ~すごいんだな。」と感心したものだが

あまりにもチーフが何回も自慢して言うものだから

最近、俺の中で今となってはどうでもよくなってる。

ジャッキーチェンと聞いてもなんてことない。

ただのカンフー好きなオッサンに成り下がっている。

「おい。12番の円卓のお客様がコース料理をご注文された。

お前の出番だ。頑張ってくれよ。」

「えっ~またですか。勘弁してくださいよ。

さっきも俺が別のグループのお客さんをとりわけたところなんですよ。」

と不満を漏らす。

申し遅れたが俺、月俣 誠(つきまた まこと)。

この中華料理店でウエイターを務めるアルバイト学生である。

ウエイターと言っても

どういった仕事内容かと言うと

客式の高い中華料理店なので

黒服のスーツをビシッと着せられ

自分の担当になったテーブル番号のお客の頼んだコース料理を

円卓に配るというものである。

当初、始めたころはシェフのワンが俺のスーツ姿を見て

「孫にも衣装だな」と茶化しにきたものだ。

ただ俺の仕事はこれだけだと思うと大間違いである。

それだけではない。

デザートの小皿をお客それぞれに配るならまだいいが

面倒なのはその次に控えている大皿料理である。

こんなチンケな普通の大学生にそんな大それたことさせるなよと

この店のオーナーに言いたくなるのだが

たとえばお客が7人いたら

中央に乗せられた大皿料理をそれぞれ7人に配るという

大役を仰せつけられている。

これの難しいところ・・・

それは7人均等に分け与えること。

サラダやらマーボ豆腐といった分量が適当なものならまだいいが

エビのチリソースなんかは

お客同士は隣人と愉快に話をしていたとしても見てないようなフリをして

じつは穴の開くほど俺の手つきをよく見ている。

たったエビ一尾隣の人が多かっただけで文句を言ってくるのだ。

ひな鳥が親から運ばれてくる餌をたよりに何羽かのひなが

口を大きく開け待っているようなものである。

俺がこの仕事を始めたきっかけ・・・

それは時給がいいのに目を奪われたことによる。

「しょうがないだろ。人が居ないんだから。頼んだぞ。

くれぐれも失礼のないようにな。」

チーフが念を押してくる。

「はいはいわかりました・・・こんな感染の危険のある・・・くそ面白くない・・・」

小さな声でチーフにわからないように反論する。

むしろ俺は今のこの時期に関して言えば

バイト料云々よりも命を大切にする派なのである。

「そうだ。言い忘れた。12番テーブルのお客様、中国のお客様だからな。」

聞いた瞬間、足がもつれて俺はコケそうになる。

 

 

つづく

 

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2020年05月06日

湖の妖精1

「はあ~」

深くため息を漏らす一人の青年。

ここは高級中華料理店である。

店内には縦5列、横5列にそれぞれ円卓が配置されている。

規模からするとかなりデカい。

23台の配膳を押している女性の給仕がその間を行きかう。

円卓に座っているお客に飲茶を売るためだ。

「おい、蒸し餃子をくれ。」

なんて注文されると

「はい。」と一声ハキハキと快く引き受けて幾つも積み重ねられている

セイロの中からひとつだけを取り出し

円卓に座っているお客に提供するのだ。

午後7時。

いつもならこの時間帯で言えば満席で

あらゆるところから注文が入り

配膳を押して居る女性たちは右往左往しながら

忙しくしているのが本当のところである。

ところが・・・

埋まっている席はわずか2席だけ・・・

このうちの1席はもうコース料理も終盤にさしかかり

まもなく食べ終わるグループでもう一つのグループは

今しがた来店したばかりのお客のグループなのである。

なぜそんな少なくなってしまったのか?

それは・・・

今、世界を騒がせている・・・

あのコロナである。

まだ辛うじて緊急事態宣言は出ておらず

細々とやってはいるがこの状況が続けば

いずれは経営も行き届かなるのはわかる。

政府の動向をみながら

明日にでも緊急事態宣言がでるんじゃないかと

ヒヤヒヤしながら経営をしているというのが本当のところである。

そうなれば休業要請が発令されて店を休みにするしかない。

休業補償給付金?というものが50万?100万?

出るらしいがそんなお金がたった1か月間出たところで

とても賄えるはずがない。

月の家賃の80万円と社員20人の月々の人件費と電気代やらガス代の光熱費

あと諸々の消耗費であっと言う間にそんなお金なんて無くなってしまう。

寸志もいいところだ。

この先のことを考えると夜も眠れない。

「おい、誠。誠はいるか?」

突然チーフの声に厨房内に響き渡る。

一瞬ではあるが厨房内がざわめきだす。

 

つづく

 

妖精1

 

 

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2020年04月26日

GHOST 第20話

 

「おい。起きろ。」

クロゼットの中で

うつらうつらしていた俺に向かって

急に誰かが話しかける。

ハッと我にかえる。

GHOST「誰だ。」

あたりを見回すが誰もいない。

暗いクロゼットの中にいるのは監禁されてる承と

その隣にまるで役目を果たしていない名ばかりの守護霊となっている俺のみ。

おかしい。今、確かに声がしたんだが・・・

もしや承の声?いや違う。今の声は承の声ではなかった。

かなり年配だった声のような気がする。

「そなた、そんなに我が子の前に目に見える形で姿を現したいのか?」

まただ。

どうやらクロゼットの外から声が聞こえてくるみたいだ。

クロゼットの扉は湿気防止のため

完全な一枚板になっておらず

扉の中央に縦一列に5本ばかりの柱が組み込んであり隙間が空いている。

俺はその隙間から外を確認してみる。

見慣れない西洋人のような長髪の老人が壁にもたれながら座っている。

風貌はというと一枚の大きな白い亜麻布を器用にも体に巻きつけ

片方の肩だけは巻かずにおもむろに見せつけるような感じにしてあり

もう片方の肩の上でピン止めして

下の方では一本の縄がウエストのあたりで締めつけてある。

GHOST「なんだ。あの格好。随分変わったファッションの老人が現れたものだ。」

俺はそれを見ながらクスッと笑ってしまう。

どう考えても現代人が着ているいで立ちとはかなりの差の開きがある。

GHOST「じいさん、どっからこの家に入ったの?

どうしたの?仙人みたいなヘンテコな服着て。

しかも縄で腰止めって。

死ぬ前に現世では母ちゃんにベルトの一つも買ってもらえなかったの?

まあ俺個人としてはそのワイルドさを高く評価するけどね。

どこかでこのあと仮装大会でもあるのかい?」

「じいさん!!!どの口が言っておる?なかなかそなた、初対面なのに失礼な奴よの。」

カチンときたようだ。

なんだよ。いきなり怒ってきたよ。気難しい頑固じいさんだな。俺は思う。

GHOST「まあいいじゃないの。固いことは抜き。

じいさん、あんたもどうせ俺と同じで不虜の事故にでも遭って成仏できず

魂がこの世の中でフワフワと浮遊して、さまってんだろ?

お互い苦労するよな?」

「ウォッホン。ワシはだな。そなたの言う・・・」

老人が話そうとしていた所に俺が割って入る。

GHOST「まあいいや。どうでもいいよ。そんなこと。

じいさんがどうして死んだかなんて俺には一切興味無いから。

どうせ今流行りのコロナにでもかかって死んじまったと

勝手に俺の中で解釈しとくからさ。

それにじいさん固いんだよな。

そなた・・・そなた・・・って。

冬のソナタじゃないんだから。

生前もそんな高貴な人が言ってるような言葉使ってたの?

かなり現世じゃ生きていくうえで色んな人達から気持ち悪がられただろ。

そうだろうな。浮世離れしすぎ。

近頃じゃそんな言い方してギリシャ神話に出てくるようなファッションしてる人見たことねえもん。

まあ折角こうしてこの世界でお互い話せる人間を前にしたんだから、

もうちょっとリラックスして話し合おうや。

俺たちは同じ境遇なんだ。

そんな毛嫌いせずお互いヨロシク頼むわ。」

「・・・」

無口になったところをみると老人は俺の飾らない言葉に腹を立てたようである。

GHOST「気悪くしたかい?気悪くしたなら謝る。ごめんな。じいさん。」

気を取り直して老人に尋ねてみる。

GHOST「ところで何?さっき言ってたけど、じいさん、俺の望み叶えてくれるの?」

「そうじゃよ。そなたは本当に我が子の前に姿を見せて現れたいのだな?どうじゃ?」

GHOST「じいさん、すごいね。地獄耳なんだ。

なぜそういったことで俺が悩んでいるって知ったの?」

「昨日、ワシに向けて言っていたではないか。」

GHOST「言うには言ってたけど、じいさんには直接言った覚えはないし・・・

わかった。そうか。

たぶん神様を通じて回り回って間接的に俺の言葉がじいさんの耳に入ったんだな。

そんなぁ・・・わざわざ俺のために老体にムチ打って、ここまで来てくれるなんて。

感謝。感謝。じいさんって優しい人なんだな。

段々こうして見てるとじいさんの顔が絵画で言うところの

「最後の晩餐」の中央にいる人そっくりに見えてきたよ。

ちょっとこっちの方がシワが多くて白髪も多い。

かなり身なりもお粗末で頼りない感じだし歳もとり過ぎだけどな・・・」

「悪いか。余計なお世話ではないか。さっきから大人しく聞いておれば、

あ~だこ~だと失礼なことばかり言いおってからに。

そなたちょっとうるさいんじゃよ。

もう少しだまっておれ。

それにしてもあの絵にワシが描かれているとよくわかったものじゃな。

よいか。歳は誰だってとるもんじゃ。

あれは若い頃のワシじゃ。

レオナルドの奴が1点透視図法という特殊な方法を用いてワシを書いてくれたんじゃ。

同じレオナルドでもディカプリオの若造の方ではないぞ。

しっかし・・・こんな小僧におちょくられるなんて・・・まったく。

ワシも落ちぶれたもんよ。」

GHOST「わっ、感じワルッ。俺を子供扱いして。」

「まあそんなことどうでもよい。

我が子の前に姿を現したいのかどうなのか?ワシは聞いておる。」

GHOST「そ、そうだよ。姿を現して承と話しがしたいんだ。」

いきなりのことで戸惑いを隠せないが

俺は素直に応じる。

「そのワシに向けてのタメ口どうにかならんかの。

何億という人間がこのワシを世界では崇拝してくれているのに・・・

そもそもワシの方がそなたより歳上なんじゃからして・・・」

GHOST「うぇ。じいさん上下関係には厳しいんだ。

見た目はひ弱そうなんだけど、じいさん案外と体育会系なんだね。

霊界にも上下関係があるなんて知らなかったよ。

まあいいか。俺の望みを叶えてくれるんだし・・・

あのぉ~

本当にワタクシの願い叶えてくださるんですか?」

「一つだけな。」

GHOST「なんだよ。ケチ!!」

「今、何か言ったか?」

GHOST「いえ、何も言ってません。」

「そなたの望みを一つだけ聞いてやろう。

それ以上は無理じゃぞ。

ワシも世界を股にかけて行動している忙しい身じゃからな。

このあとそなたの用事が済んだら、すぐイタリアに出張行かねばならんのじゃ。」

GHOST「忙しいんだな。まあいいじゃないの。歳をとっても必要とされるんだから。

ありがたいとおもわなきゃバチがあたるよ。

そんなことより承の目の前に現れるには、どうすればいいの?」

「またタメ口になっておる。そなた馴れ馴れしいんじゃ。

まあワシだから許してやるがの。

弟子たちの前でそんな言葉使いしてたらデコピンもんじゃぞ。

話が脱線したゆえ元に戻すと・・・

そなたの望みを叶えてやれる一番いい方法の一つは・・・

我が子の枕元に立つがよい。

これが一番簡単な方法だとワシは思うのじゃ。

もっともそなたの子はクロゼットの中にいるので枕元に立てる状況ではない。

このままにしておいてはあまりにも可哀そうだと思い、そなたの願いを叶えるようにしたんじゃ。

ただしこれには条件がある。

ポルターガイストのようにものを動かすというのは厳禁。

もっともこれは現世で超能力を身につけていなかったら出来ない技なんじゃがな。

スプーン曲げ一つも出来ないそなたじゃ逆立ちしても無理じゃ。」

GHOST「だったら、ポルターガイストなんて言うなよ。」

「今、何か言ったか?」

「いえ、何も言ってません。」

「我が子の前で姿を現して言葉を発するのみじゃ。

それも言葉を発せられるのはたったの一回のみ・・・

よいか。一回のみじゃぞ。

それ以上言葉を発すれば己が自然と現世から姿が消えてしまうからな。

それに。

我が子を前にした時に心を乱してはいかぬ。

冷静沈着にして節度ある態度を保持することが必要となるからの。

平常心を保って常にポーカーフェイスで一言だけ我が子に向かって言うがよい。

その一言だが文字数にして10文字以内。」

GHOST[なかなか細かいな。]

俺は小声でつぶやく。

「今、何か言ったか?」

GHOST「いえ、何も言ってません。」

「幻聴かの。歳をとると耳が遠くなっていかん。

中には原稿用紙1枚分言う者もおるが

そうなった場合

即、話している途中でアウトにするからの。

それらを守ることができるなら、ことを成すがよい。

時刻は今日の・・・そうだな。丑三つ時がよいな。

そなたのような浮遊した霊が出やすい状況がそろっておるからの。

それにこの時間帯は、とくに輝かしい後光が射しやすいんじゃ。

よいな。しかと約束は守るのじゃぞ。わかったな?」

GHOST「わかりました。ありゃーす。」

「そなた、ふざけておるのか?

ふざけている者には慈悲をいっさい与えたりしないからな。」

GHOST「いや、失礼しました。決してふざけてなどいません。すみません。」

「では頼んだぞ。」

GHOST「あ、あの・・・最後にひとつだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんじゃ?」

GHOST「句読点含めて10文字ですか?それとも含めなくて・・・?」

と言った瞬間、スッと老人は煙と共に消えて

「アホか。」と去り際に小声で言った言葉を最後に

そのあと一切何も起こらなくなり

声も2度と聞くことはなかった。

まことにもって変なじいさんだった・・・

 

つづく

オバケ

 

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2020年04月23日

GHOST 第19話

 

夜は段々と更けていく。

「おとうちゃ、さみしい

薄暗いクロゼットの中で承は独り呟く。

「おとうちゃ。あいたい・・・」

俺も承の唯一の形見であった腕時計を

吉田の強引な行ないによって失くしてしまったことに

いたたまれず承の隣で共にシクシク泣いていた。

GHOST「ご、ごめんな。承。

こんな狭い暗闇に独りにさせて。

救ってやりたいがおとうちゃんにはそれができないんだ。

どうすることもできない。

お父ちゃんが死にさえしなかったらこんなことにはならなかったのに。

自然と涙腺が緩み次から次へと止めどなく涙が出てくる。

お父ちゃんだってまだ死にたくはなかった。

これからもずっと承と一緒に居たかった。

ずっとずっと承と一緒に居られると思ってた。

承が大きくなって

一緒にキャッチボールできるのを夢見ていたりしたんだ。

でももう叶わない夢に終わってしまった。

あえなくおとうちゃんは死んだことによりゲームセット。

でも承はこれから生きていく上で若いんだ。

人生ゲームは始まったばかりで

プレーしていく上で未来を築いていけるチャンスはある。

ただ・・・

あんな冷酷非道な奴にさえ遭わなかったら・・・

吉田に遭ったことにより承の大切な人生の岐路を・・・

ゲーム上でいうなら

スタート地点でマス目を5マスも10マスも戻らされてしまったことになる。

まだ2歳になったばかりの子供にこんな辛い事が待ち構えているなんて。

おとうちゃんはあいつを絶対許さない。

あいつは人間の皮を被った悪魔だ。」

俺は、たまらず拳を強くギュッと握る。

「物質化できてアイツの前に化けて出ていけるのなら

今すぐにでもアイツを呪い殺してやりたいくらいだ。

承、辛いだろうな。

こうして独り小さな体で戦っていること・・・

どれほど大変なことか。

想像を絶する恐怖と寂しさが

お前を襲っているんだろうな。

お父ちゃんはこうしてお前とは違った異空間に

存在していて何もしてやれない。

承が虐待に遭っているのに見ていることしか出来ないでいる。

一番辛い。親としてそれは拷問に等しいものがある。

こんなに身近にいるのに守ってやれないなんて・・・

おとうちゃんは失格だな。

こんなことになるのなら数千ボルトの電流が流れているので

さわるなと言われて感電した方がまだまし。

目の前にいるのに感触すら感じないなんて・・・

こんなことあるか。

承。お父ちゃんは

いつもお前のこと思っている。

決して見離した訳じゃないんだ。

承、お父ちゃんの声聞こえるか?

ふぅ~。やはり承には聞こえてないか。残念でしかたない。

俺がここにこんなにも近くにいるのに。

なぜ承に言葉を伝えることが出来ないんだ。

触れることさえもできない。

神様、ほんの少しでもいい。

ほんの少しでもいいから

俺の気持ちを承に伝えてやってくれ。

すべての人が悪魔に見えたとしても、

おとうちゃんだけは承を見捨てたりはしない。

おとうちゃんはいつも承のそばにいていつも承を見守っているんだと。

神様、頼む。頼むから・・・」

俺は泣き崩れる。

尚も俺は今まで耐え忍んできた言葉が次から次へと出てくる。

「神様、俺なんかどうなってもいいんだ。

死を受け入れた以上、これよりも悪くなりようがない。

どんな天罰でも受けてやる・・・

俺を地獄に突き落とすなら突き落としてくれ。

好きにやってくれていい。

そのかわり承だけは何としてでも俺が守ってやりたいんだ。

こんな宙ぶらりんな状態で虐待されてる承を見ているなんて・・・

耐えられない・・・耐えていられる方がおかしい。

でも神様、あなたはこう言うかもしれないな。

そうやってそばに居られるだけでもありがたいと思えと・・・

そうか。俺の今していることっていったら

承の守護霊になっているわけだ。

神様の計らいで守護霊にさせてもらってるってこと。

だからそれ以上の贅沢は言うな。

それでお前は充分だろ。我慢しろ。

神様、そう俺に言いたいのか?

近くにいられるということが何よりも幸せなんだということを・・・」

確かにそうかもしれない。

「でも神様。じゃあ聞くが

もし俺が今、俗に言われる守護霊になっているとするなら

そばにいて見ているだけ。何もしてやれない。

何も守ってやれない。何も言葉に出して言ってやれない。

何の運命も変えてやれない。

デクの棒のようにただただジッと承の隣に立って

馬鹿みたいに我が子を見ているだけ・・・

こんな飾りだけの存在が守護霊と言えるのか?

虐待されているのを近くで見ているだけの守護霊なんて・・・

いったい何を守っていると言うんだ。

なにも守ってやれていないじゃないか。

これがあなたの言う守護霊の本当の姿なのか?

守護霊って困っている子孫の背後にとりついて

救ってやれるほどの有り難い存在じゃないのか?

こんなこと・・・とても耐えられない。

今、俺のしていることが守護霊の役割だなんて・・・

これじゃあ役立たずの守護霊じゃないか。

俺にとっては嫌がらせもいいところだ。

神様、そうじゃなくて俺に本当の力を与えてくれ。

承を本当に守ってやれることのできる力を・・・

承は・・・これから先の希望がある。

承は虐待に遭いながらも今必死になって生きようとしているんだ。

その分だけでも俺の守護霊としての力を発揮して幸せにさせてやりたい。

こんな2歳の小さい体で虐待に遭ってでも我慢して耐えているんだ。

努力やら試練は人それぞれ用意されてるとするならば

幸せは誰にだってつかめるものじゃないのか?

神様、これが本当の試練だとするなら、

なぜ産まれてから今に至るまで

業を積んだことすらしたことのない

こんな幼い子供にまで

これほどの試練を与えようとするんだ。

まるで生き地獄じゃないか。

承はまだ2歳なんだ。

人生ゲームが始まったばかりで、

ゲーム本来の楽しさというものをまだ知らないでいる。

これ以上苦痛を与えて苦しめないでやってくれ。

1度でもいいから承を幸せにさせてやって笑顔にしてやりたいんだ。

そのかわりこの俺がどんな罪でも受ける。

俺を罰してくれ。」

俺は泣き崩れながら必死になって神様に懇願する。

必死になって祈る。必死になって叫ぶ。

でも何も通じない。

漆黒の闇夜の世界が音も無くシンと静まり返り存在するだけ。

俺はとうとう禁断の言葉を口にする。

涙ながらに・・・

「承、こんなことになるのなら

お父ちゃんと一緒に電車に轢かれて死ねば良かったな。

ごめんよ。承。

もっと色んな思い出を作ってあげたかった。

今となっては図書館に一緒に行っていた記憶だけが痛烈な思い出しかない。

2年間という期間は短すぎる。

神様、あなたはどう思うか知らないが

承は、これっぽちの物しか幸せというものを

手にしたことがないんだ。

それなのに尚もいばらの道を歩かせるなんてあんまりだ。

世の中にはもっともっと幸せな生活をして

暮らしている子もいるじゃないか。

うちの承にだって

ごく普通で元気いっぱいの2歳の男の子らしく

笑いの絶えない暮らしをさせてやりたいんだ。

どうしてあなたはここまで差別をお与えになるのか・・・

こんなことなら承を早く楽にしてやってくれ。

じゃなかったらあの吉田という悪党を地獄に突き落としてやってくれ。」

暗闇の中で叫ぼうとも誰も何も反応しない。

俺だけが空しく独り叫んで空回りしている。

こんなどっちつかずの魂がさまよっている人間には

これっぽっちの感情さえも神様には届かないのか。

月が冷えた地面を照らしている・・・

「ごめんな。承。

お父ちゃんだけが先に逝ってしまって。」

枯れる事のない涌き出る泉のように

次から次へと涙が出てくるのだった。

 

 

 

つづく

obake

 

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2020年04月21日

GHOST 第18話

 

 

「これでよしっと。」

手で体に着いたホコリを払いながら

吉田はホッと安堵のため息をもらす。

「可愛くねえガキだぜ。まったく。

当分、お前には食事食わせねぇからな。

そこまで暴れる力があるんだ。

お前にはエネルギーの元になるようなものは

今後いっさい食わせねえ。

俺よりまさるものなんてお前には必要ない。

しっかり反省して

自分のしでかしたことをよく考えろ。

反省するまで飢え死にしようがどうなろうが

絶対にここを出さねえから。

こんなことになったのもお前が悪いんだからな。

全てお前が悪い。

胸に手を置いてよく考えてみろ。」

クロゼットの前で吉田は大声で叫ぶのだった。

 

つづく

 

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南安城整骨院・接骨院のおもしろい院長ブログ

安城市にございます南安城整骨院では、院長がブログを配信中です。院内の出来事や治療の事、お体の事、あるいは日常のちょっとした出来事などを綴っておりますが、ご覧いただいている常連の患者様などからは、文学調で面白いとか、エッセイを読んでいるようだとの感想を頂戴しております。
単に痛みの話や交通事故治療の話を語り、南安城整骨院・接骨院にいらしてくださいというのではなく、どこか小説を読んでいるような面白さでございます。是非一度、ご覧いただき、院長の成りや人柄、考え方に触れていただければ幸いです。
整骨院・接骨院での治療は直接お体に触れ、患部の症状を和らげていきます。そのため、やはり施術する人がどんな人であるのかは、患者様の関心事でございます。ブログを見て、この人なら任せられると思った方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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