ボンベレスダイブ106
植村が、話終える。しばらくの沈黙が続くことに・・・
周りから聞こえてくるのは、トラックのエンジン音しかない。
しかし僕たちの耳には、それが地獄の窯が煮えたぎる慟哭の音にしか聞こえてこなかった。
「俺がな。おまえらをこのトラックに乗せようと思ったのはな。お前らにはリストカットした弱い友達がいると聞いたからだ。俺の弟は死にたくないのに誰だかわからねえ奴に殺されて死んでいった。この悔しさがお前らにわかるか?別に本人が死を望んでいたわけでもない。決して本人は死にたくもないのにだ。それなのに・・・なぜだ。人は独りで自然の摂理に逆らってまで自分勝手に死にたいから死んでいってるという現実がある。当たり前のように死んでいける世界があるってこと自体大きな間違いなんだ。この世はてめえ独りだけじゃねえんだ。人一人死ぬということは俺たちのような周りも大きく人生を狂わせることになる。それがわかっていねえ。あたかも死ぬのは私の勝手でしょと言わんばかりの態度になって開き直る。人はオギャーと生を受けてこの世に産まれたからには天寿を全うして精一杯生きなきゃならねえんだ。俺はお前らにそういう現実があるということを判ってもらいたい。死というものは自らがすすんで望むんじゃねえ。死というものを軽視しているそのアンポンタンに言ってやれ。死は自然に受け入れるものだ。生きて生きて死の使いの者からお呼びがかかるまで精一杯生きるんだと・・・」
植村が語気を強めている点から真剣度が伝わってくる。
「いいか。わかったな?」
強い眼差しを僕たちに向ける。
僕たちは、植村の強い申し出に深く頷いた。
そうか。改めて納得したことがある。この植村という人物が僕たちの安否をここまで心配してくれるのは、自分の周りでこれほどの残忍な事件があったからなのか?
僕たちに警鐘を鳴らせているとも言える。
「ひどい事件。」
しばらくして和樹が静かに言った。
「ちくしょ~。明が死んだのは、この世界が悪いんだ。明は、今の時代の言うなれば犠牲者だ。ちくしょ~。」
プシューー
ビール缶を開ける音と共に、すすり泣く声が遠くのほうに聞こえるようになっていた。
僕たちは激しい眠りに襲われつつあった。
あまりの眠さに思考回路がだんだんと断線していくのが分かった。
トラックの小気味良い振動が手伝ってか、またもや僕と和樹は夢の世界へと引きずり込まれていったのである。
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