2021年02月23日

ボンベレスダイブ101

トラックは首都高から東名高速に乗ろうとしていた。ようやく名古屋、大阪方面に進むことが出来る。進行方向に向け、舵をとれることに僕たちは、ホッと胸を撫で下ろしていた。

そんな時だった。

「俺の弟がよ~。」いきなりトラックを運転する植村が話しかける。

「えっ?」

「俺の弟・・・」

「・・・」

「俺の弟はなあ~。いい奴だったんだよ。」

「はい・・・」

的を得ず突然話してくるから、とても気を使うし、どう受け答えしていったらいいか、皆目見当もつかない。またしばらくの沈黙。話題になりそうなものを考えていると

「実にいい奴だった。いい奴だったし、いい家庭を持っていたんだ。」

勝手に自分の身内話を話し始める。

「はい~。」

また沈黙。僕は対処するのに困ってしまう。

ん?待てよ?今、いい奴だった。って聞いたような気がする。

ってことは・・・

「いつも、ここを通るたびに、湿っぽくなっていけねえや。」

僕が植村の顔を見た時、手で目のあたりをぬぐっている所だった。そして頬を見た時、涙で濡れているのが判った。鼻をすする音。この場所が植村にとってよほど忘れることが出来ない場所なのだろうということは簡単に推測できる。

プシューーー

小気味よい音がしたほうに目をやると、運転席からビールが勢いよくプルトップの周りで泡を出していた。なんか嫌な予感。少し酒臭い。

明らかに今からヤバいことをしようとしている。

飲酒運転でもしないとこの道を通る度、当人からすれば気持ちが修まらないのかもしれないが助手席に座らされてる僕達からすれば事故死するかもしれないという不安が常につきまとうことになる。

「あれは、その年が終わろうとする暮れも押し迫った頃だった・・・」

植村は語り口調で話し始めていた。

到底シラフの状態でこの話を他人である僕達に向けて話すにはかなり酷なのかもしれないが、だからと言って飲酒運転していいということにはならない。

これは明らかに常軌を逸している。

そうは思っても僕たちは、何はともあれ真剣に植村の今から話すその話の内容を聞きながら情景を頭に思い浮かべていた。

 

 

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2021年02月20日

ボンベレスダイブ100

とうとうきたか。来るかも知れないとビクビクしながら待っていた悪い知らせ。この運転手のおやじ、僕たちを最初から誘拐して殺す目的で乗せていたんだ。やっぱりそうだったか。どいつもこいつも悪党ばかりだ。

さっきは上手く逃げ切れたが今回のケースではもう駄目になる確率が高い。この逃げ場の無い助手席に座らされている状況からして、そんな予感がしていたんだ。1回目の人身売買させられそうになった事といい今回の誘拐殺人といい、なんて僕たちはついてないんだ。結局、僕たちは死ぬ運命にあったということだ。なんと短い人生だったことか。そう思った瞬間、悲しい思いで胸が一杯になった。予想はしていた出来事ではあるが、実際に目前に迫っている死の存在を意識すると、いさぎよく死ぬという事は、かなり勇気のいる行為となる。でもこうなった以上仕方ない。決められた運命に従うまでだ。最初からあらかじめこうなるかもしれないと決めていた事だ。しかも自分たちが勝手に決めた事。これ以上執念深く生きるということに執着できない。胃のあたりでモヤモヤしていた軽い痛みのようなものが薄らいできたような気がする。諦めの境地というものに段々なっていくと共にブルブル震えていた体が度を越した度胸へと代わり怖さが徐々に消えていくように感じた。もうどうなろうと僕達がどうあがいたって運命は決まっている。最後は死だ。死しかないんだ。

なんなりとあんたの好きなように僕たちを煮るなり焼くなりして血祭りにあげるがいい。

体の内部に仕組まれた部品の一部が欠落したのかと自分でも思う程、ガタンガタンと錆びついた関節をきしませながら必要最低限の生命維持しているのが今の僕達の状況だった。怖がるだけ損な気がする。これ以上考えることは止めにしよう。もう怯えないし、ひるまない。怖さも消えた。

どうせやるなら、ひと思いに、一気に殺してくれってんだ。

「俺たちのボンベレスダイブは目的果たせぬまま死ぬ運命だった。それならそれでいい。」

そう僕は自分に向け心の中で呟いた時だった。

「と、もし俺が言ったら、どうする?」

なんだ。冗談かよ。おっさん。冗談にしては、きつい。「ふぅ~」という安心したため息が一気にもれた。今の言葉、今の僕たちには禁句中の禁句。あーびっくりした。脅かすなよ、全く。

「駄目じゃないか。こんな無茶な危ないことをしては。お前たちは、まだ若いんだからな。大切な将来が控えている。もっと自分を大切にしろ。わかったか?」そう言うと運転手のおやじは僕の肩をパシンッと勢いよく叩いたのだった。

「はい。」1発激しく活を入れられ弾むように僕達は助かったことの感謝を含め答えた。しばらく、沈黙が続いた。

トラックは、あれだけ渋滞していた首都高をようやく通り抜けようとしていた。

ここまで、高速にのってすでに二時間が経過しようとしている。

 

 

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2021年02月17日

ボンベレスダイブ99

 

助手席で凝り固まって身動きも満足に取れずこの死んだように硬直した体をようやく自由にできることがなによりも嬉しいことであったため僕は運転手の質問に対してどもりながらの一つ返事で答えていた。

高速道路のパーキングエリアに寄ること。それは今、僕たちに用意されたオアシスのようなものでありいっときの安堵感を与えてくれる楽園のようなものに匹敵する。

しばらくの間、休憩できる。そう僕達は思っていた。

そうこうしているうちにトラックは、パーキングエリアに入っていく。

「じゃあ、五分な。」

植村が吐き捨てるように僕たちに冷たく言う。

「えっ?」

耳を疑ったが、とにかく僕達は無理を言ってトラックに載せてもらっている身。ここは大人しく従わざるを得ない。数え上げればパーキングでのしたいことは山ほどあるのだが、そこをグッと我慢してトイレをすませた五分後、飼いならされたペットのようにちゃんと時間にシビアに行動しトラックに着席を強要させられることに僕たちは落胆の色を隠せなかった。

本当に面白い程ストップウォッチで計らされたような五分間の休憩だった。あと他には、一切のものが切り捨てられ自由なんてものは素通りさせられた。

時間を計ったように、五分後にはトラックが自動運転でもセットされたかのように動き出していく。1秒でも遅れたらこの植村という運転手は僕達をその場に置いていくに違いない。この男。徹底したかなりの堅物である。

「おい、今のでいくつジャンクション通り過ぎたんだ?」

「兄ちゃん、まだ1つ目だよ。」

「迷っちまうな。」

とにかく、網の目のように張り巡らされた首都高はジャンクションに差し掛かるたびに、縦横無尽に方向を変える。迷路そのものだった。そんな時である。

「殺す。」「えっ?」一瞬、僕は言葉を失う。「さっきから聞いてれば言葉を覚えたての子供みたいによくしゃべりやがって。お前ら、ちょっとうるせえんだ。二度と口もきけねえようにしてやるから覚悟しろ。」堪らずに植村が口走ったのだ。「えっ?」聞き間違いであることを祈る。

「今から、お前達を殺してやるからな。そう俺は言ったんだ。この俺の手で。覚悟しろ。だから大人しくするんだ。」

そう言った後、植村の高笑いが車内で時間にして1分間、続くこととなる。「ええっ?」

僕たちは和樹と口々に聞き返していた。僕たちは顔を強張らせる。

「残念だったな。このトラックに乗ってしまったことを呪え。せいぜい死ぬまでの間、ここで充分楽しむがいい。冥土のみやげになるってもんだ」

 

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2021年02月17日

ボンベレスダイブ98

トラックの助手席に座ること自体、僕たちは初めての経験だった。

車内が意外と広いことには驚かされた。

椅子は、リクライニングシートになっていて、百八十度倒すことが出来る。

また椅子の背後にはカーテンがしかれてあって奥にはスペースがあり、あえてそこで寝ることも可能だった。

ジュースホルダーには、飲みかけの缶ビール。ん?まあいい。ここだけの話ってことで、これは見なかったことにする。

植村は、さっきの言葉を最後に、ずっと黙ったままである。

座席に座っていて、気まずい雰囲気なのは言うに及ばない。

うまく計画どおりに事が運んで嬉しいとは思う。

でも本当にこのトラックでよかったのか?という疑問さえ湧いてくる。

まあ、仕方ない。乗りかかった船だ。じゃなくて、トラックだ。

トラックは東北自動車道、佐野藤岡インターチェンジから乗り、東京へ向け進路をとった。

今度はちゃんとした方向へ向け無事に進んでいるようだ。植村の真面目そうな顔が人身売買に一切関係なさそうな感じがしてホッと一安心する。もう2度と同じ目には遭いたくないからだ。

トラックの快適な揺らぎ、朝早く起きたことによる疲れのせいで五分もしないうちに僕たちは、眠りの境地へと入っていった。時間にして、ちょうど一時間、僕たちはトラックの助手席で眠りながら身動き取れない姿勢が続いた。

やがてトラックは東京の首都高に合流、そこを尚もお互い無口なままシンと静まり返ったトラックが一台、走り抜けていた。植村は、缶ビールを飲み終え、それを灰皿がわりに、ぷかぷかとタバコをふかしている。単調ななりにも色んなことをして、あれやこれや忙しそうにしている。さらにトラックは四、五十分走っただろうか?

そこでようやく渋滞に巻き込まれてしまう。そしてジャンクションにさしかかったか?と思うと分岐するあたりで右へ左へトラックは進路をとっていた。その度に僕たちの体は、同じように右へ左へと揺れていた。

それまでは気持ちよく寝ていた僕達であったが、さすがにこんな左右への振り回される状況があると眠れるわけにはいかない。目に見えない植村に対する緊張もあり腰も膝も、直角位のまま凝り固まっていた。最初、快適だと思われた助手席は、これじゃあ生き地獄である。

「坊主たち。トイレはどうだ?」

「えっ?」

植村の突然の言葉に集中を欠いていた。

「トイレに行きたいか?と聞いているんだ。小便したいなら、パーキングによるぞ。」

「お、おねがいします。」

 

 

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2021年02月10日

ボンベレスダイブ97

 

「本当に、いいんですか?」

 

僕は、トラックに近づき、男に話しかけていた。

 

「乗れ。」

 

「お金が、本当にないですよ・・・」

 

「そんなの要らん。とっとと、助手席に乗れ。」

 

「お金なくても、いいですか?」

 

僕は、改めて念を押す。

 

「くどい。お前は本当に行きたいのか?それとも行きたくないのか?どっちなんだ。」

 

「行きたいです。」

 

「だったら、乗れ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

あくまでも虎視眈々とした男のぶっきらぼうなその態度に僕はあっけにとられる。

 

さっきの2人組みの男たちより言葉は乱暴だが、話してみた感じこの男は裏がなさそうだ。

 

トラックの運ちゃんというものは、気性が荒く、短気だと聞いてはいたが、まさかここまで威圧されるとは予想だにしていなかった。

 

僕たちは、そのトラックの助手席にすばやく乗り込んだ。

 

プゥォーーン

 

「俺の名前は植村ってんだ。」

 

そう言うとクラクションと共に、トラックは爆音発車していた。

 

 

 

 

(少し離れた空き地)

 

コンビニから離れたわき道からシルバーの車が朝日の光を浴びてキラキラ輝いている。

 

車内でそれを一部始終遠くで見ていた一人の男。

 

男は、おもむろに携帯電話を取り出し、電話を掛けていた。

 

「ああ、俺だ。ガキ達は、ようやくトラックに乗りこみやがった。やっぱり睨んだとおりあの会社のトラックだったよ。後から俺もそちらに向かうからな。いいか。しくじるんじゃねえぞ。しっかりやれよ。」

 

男はそう言うと電話を一方的に切っていた。

 

 

 

 

 

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南安城整骨院・接骨院のおもしろい院長ブログ

安城市にございます南安城整骨院では、院長がブログを配信中です。院内の出来事や治療の事、お体の事、あるいは日常のちょっとした出来事などを綴っておりますが、ご覧いただいている常連の患者様などからは、文学調で面白いとか、エッセイを読んでいるようだとの感想を頂戴しております。
単に痛みの話や交通事故治療の話を語り、南安城整骨院・接骨院にいらしてくださいというのではなく、どこか小説を読んでいるような面白さでございます。是非一度、ご覧いただき、院長の成りや人柄、考え方に触れていただければ幸いです。
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